新型コロナウイルスはタチの悪い伝染病であることには違いないが、こちらの使いようによっては大変便利なものである。なにせ、この新型コロナウイルスを盾に取りさえすれば、大体の言い訳を通すことができてしまうのである。
新型コロナウイルスが流行してなくたって売れるかどうか怪しかった商品なのに、「いやー、新型コロナのせいで売れ行きが伸びませんでしたね」とか、本音じゃあまり会いたくないけど、関係上そうも言えない相手に対して、「お互い感染させてもいけませんので、落ち着いたら伺います」とか、新型コロナウイルスが都合よく使われる場面を数多く目にする。
新型コロナウイルスを怖がっているフリさえしておけば、会社に行かないことすら正当化される。それどころかむしろそれが奨励されているのが今の世の中である。まあ会社に行かずに家で何もせずにゴロゴロしているのが許容されるほど社会は甘くないだろうが、それでも朝早く起きて、暑さ寒さの中を通勤するよりは楽なことは間違いない。僕のようなものぐさな怠け者にとって、新型コロナウイルスは、葵の御紋や錦の御旗のようなありがたい存在である。
新型コロナウイルスの主な症状として、発熱や身体の痛み、味覚や嗅覚の異常というものが挙げられているが、実際こうした症状が出るのは感染者のうち半分以下だという。時々思うことなのだが、新型コロナウイルスが本当に害を及ぼしているのは、こうした症状に苦しむ者ではなく、僕たちのように一見健康そうに見える駄目人間の心に対してなのではないだろうか。このウイルスは、死にものぐるいで何かに取り組む姿勢を忘れさせ、易きに流れる格好の大義名分を与えることにより、駄目人間の心を蝕んでいるのかもしれない。
こうした副次的な症状が出てしまっている者が僕以外にどれほどいるのか知らないが、事によると、これは真の感染者以上のダメージを社会に与えているのではないだろうか、と危惧しているのである。