なぜ牛丼屋が昼飯時にご飯を切らしてしまったのかを考える

最近は飲食店も早い時間に閉まってしまうし、昼飯くらいは美味いものが食べたいものだと思っているが、忙しさにかまけて、ついつい適当なものを食べて済ませてしまうことが多い。

先日、会社の近くにあると牛丼屋に入ると、まさに「牛丼屋」といった風情のよく太った店員が、いかにも申し訳なさそうな顔をして出てきた。何を言い出すかと思えば、「すいません、実はいまちょっとご飯を切らしておりまして・・・」とのこと。

あまりに唐突なことだったので、その時こそ「あ、そうなんですか。じゃあ大丈夫です。」などと答えて、滞在時間10秒で牛丼屋を後にしたのだが、歩きながら考えるとどうも腑に落ちない。平日の昼12時半といえば、ビジネス街にある牛丼屋にとってはゴールデンタイムというべき時間帯である。

まして緊急事態宣言下で夜間の客足には全く期待できないなか、この時間帯を逃してしまうのは牛丼屋にとって超致命的なことなのではないだろうか。僕としては別にこの牛丼屋の経営がどうなろうが知ったことではないが、まったくの門外漢であっても、ここで逃した利益の大きさは想像に難くない。

もしかすると、僕が店に入る前に力士の軍団が100人やってきて、一人につき5杯の牛丼特盛を注文していったのでご飯が切れてしまったということなのかもしれない。そういうことならば、僕みたいなものが心配することは何もなく、むしろ商売繫盛で結構なことである。

あるいは、バイトの誰かが、ついうっかりご飯を炊き忘れてしまったという可能性もあり得る。ワンオペやらなんやらで、牛丼屋の店員の過酷な労働環境が問題視されている昨今である。日頃の激務によって意識が朦朧としており、バイトの兄ちゃんが炊飯器のスイッチを押したと思い込んでいたが、実はそれは昨日のことだったというシナリオかもしれない。

単調な反復作業をしている時にはありがちなミスである。仮にそうだったとすれば、そのバイトにとっては今日1日針の筵だろうし、おそらく居心地の悪さに耐えかねて、その店を早期退職するという結末も容易に目に浮かぶ。

また、僕が店に入って応対に出てきた店員が、ご飯を食べ尽くしてしまったという線もありうる。昼時前の腹ごしらえで、賄いの牛丼を食べていたところ、あまりの美味さにおかわりが止まらなくなり、いつしか炊飯器を空にしてしまったという線はないだろうか。この店員のデブさ加減や、出てきた時の申し訳なさそうな表情を考えると、あり得ない話ではないと思う。

可能性は薄いが、現実世界を舞台にした壮大なコントに巻き込まれていたということなのかもしれない。最近テレビで、芸人が自らの持ちネタのコントが現実世界で展開した場合、どのようなリアクションを取るかという番組を見たような記憶がある。もしかしたらあの時、申し訳なさそうな顔で、「すいません、実はいまちょっとご飯を切らしておりまして・・・」と出てきた店員に対して、僕が勇気と元気を振り絞って、「いやおまえが食っちゃったんだろ!」みたいなツッコミを威勢よく入れることができたら、さらなる展開が広がっていたのかもしれない。そう考えると少し惜しいことをしたかなとも思わなくもない。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする