映画版SLAM DUNKがコケそうな気がする3つの不安要素

 先日、バスケ漫画の最高峰といえるSLAM DUNKが映画化されるというニュースが突如として発表された。

 SLAM DUNKは1990年代に週刊少年ジャンプで連載され、絶大な人気を博したバスケットボール漫画である。何を隠そう連載当時、中高生だった私も、この漫画を読んで高校からバスケを初めたミーハー野郎の一人である。主人公の桜木花道も、一目惚れした晴子さんに誘われるがまま、「ド素人」と言われる状態からバスケを初めているので、バスケの入門書としても格好の材料であった。

 SLAM DUNKが連載されるまで、バスケットボールという球技はマイナースポーツのひとつでしかなかったわけで、そういう意味では、僕個人だけではなく、日本国民全体にとってのバスケの入門書的な役割を果たしたと言っても過言ではない。

 「SLAM DUNK映画化!!」のニュースに伴い、ファンの間では、早速その映画の内容について喧々諤々の議論が巻き起こっているようである。まだアニメ化されていない湘北高校と山王工業の一戦が見たいとか、主人公の桜木花道が上級生になった姿が見たいとか、SLAM DUNKファンが連載終了以来、20年間溜めに溜めた妄想をネット上のあちこちで爆発させているといった様相を呈している。

 こうしたところに水を差すようで恐縮だが、僕はこのタイミングで、SLAM DUNKの映画版が大成功を収めるのは難しいのではないかと思っている。映画もアニメも素人の僕がこんな事を言うのはアホの極みであることを承知しつつ、以下にその理由を述べようと思う。

1. 現実が漫画を超えてしまっている

 SLAM DUNKの連載が開始されてから30年弱の間に、日本のバスケのレベルは飛躍的な発展を遂げた。SLAM DUNKの連載が始まった1990年代初頭に、近い将来日本人がNBAに行くなどということを言ったら、それを信じる人よりも鼻で笑う人の方が断然多かったはずである。ところが、2000年代以降、日本は3人もの選手をNBAに送り出すことに成功した。

 現在は、渡邊雄太と八村塁の2人がNBAで活躍中だが、この二人はいずれも身長が2mを超えているうえ、運動能力もずば抜けて高く、シュートレンジも広い。

 一方で、SLAM DUNKの桜木花道も、流川楓も、仙道彰も、沢北栄治も、身長は190cmそこそこで、技術的にも将来NBAに行けるほどのものは持っていないように見える。

 最近はバスケットボールを見るファンの目も肥えてきており、SLAM DUNKのキャラクターの体格や技術では、海外で活躍するのは難しそうなことがなんとなく見えてきてしまっているのである。日本国内での活躍するのが精一杯なアニメキャラを見るよりも、リアルな世界でNBAという世界最高の舞台で活躍している日本人選手を応援するほうが張りがあるというものである。

 世界で活躍する選手が日本から誕生したこと、そしてバスケを見るファンの目が肥えたこと、いずれもSLAM DUNKが一役も二役も買っているのだから皮肉と言えば皮肉である。

2. ファンの期待値が高すぎる

 冒頭でも書いたが、SLAM DUNKのファンは、連載終了以降20年もSLAM DUNKの続編を待ちわびていたのである。小暮くんの10倍である。

 というのも、作者の井上雄彦が何を思ったか、連載終了時に「第一部・完」という文言で最終回を締めくくっているのである。こういう終わらせ方をしたせいで、ファンが第二部、第三部を期待するのも当然の成り行きと言える。中には、続編が出るのを待ちきれず、自分自身でオリジナルの続編を作るファンまで出てきたというのだから恐れ入る(しかも結構完成度が高いらしい)。

 さすがに20年も経つと、続編を待ち望む声も沈静化しただろうが、それでもいまだ熱狂的なファンが多い作品である。ファンの期待を上回るような作品を作り上げるのは至難の業と言えるのではないだろうか。

 また、SLAM DUNKには、主人公が所属する湘北高校以外にも、魅力的なキャラクターが大勢登場する。当然、それぞれのキャラクターのファンも多く存在する。映画であるからには、標準で2時間、長くても3時間半程度が限界であるが、大勢のキャラクターに満遍なく活躍の場を与えるには短すぎるだろう。下手をすると、個々のキャラのファンに配慮するがあまり、総花的で焦点のぼやけた映画になる危険性すらある。

3. コアな世代が高齢化している

 SLAM DUNKが名作中の名作であることは確かだが、既に一昔前の漫画になってしまったことは疑いようもない事実である。単行本を手の汗と涙で濡らした僕も既に40歳である。青春を捧げる部活もないし、バスケをやるにも身体にガタがきすぎている。漫画のキャラは歳を取らないが、桜木花道や流川楓も実在するなら30代後半のいいおっさんである。

 正直なところ、湘北高校のメンバーには、高校卒業後、あまり良い未来が待っているとは思えないのである。折しも湘北高校のメンバーの行く先には、就職氷河期が待ち受けているわけで、高校大学卒業後、人並みの良い暮らしができたのは、成績優秀とされる赤木キャプテンと、常識人ぽい小暮くんくらいではないだろうか。

 まあ、宮城リョータあたりは勉強は苦手でも、社会では要領よくやっていけそうな気もする。桜木花道はなんだかんだで愛嬌があるので、給料は安いが周りに愛されながら幸せにやっているかもしれない。しかし、根性もなく、挫折に弱いエリート体質の三井寿は1年以内に会社を辞めそうな感じだし、流川楓にいたっては社会でやっていけないコミュ障の典型といった気がする。

 むしろ、映画版SLAM DUNKは、バスケットボールは一切スクリーン上に現れず、「就職氷河期の社会の荒波に揉みに揉まれた30代後半のおっさん達の今」のような感じでやって欲しい。これならば、僕は一人でも観に行くこと請け合いである。

とまあ、以上こんな感じで映画版SLAM DUNKの行く末を心配してみたものの、これらは全て杞憂に終わることを祈るし、映画の心配をしている暇があるなら、てめえの心配をしろといった感じである。

 

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