牛丼チェーンの松屋が2020年1月に売り出した「シュクメルリ」なる料理を、死ぬまでに是非一度は食べてみたいものだと思っていた。シュクメルリというのは、鶏肉をにんにくをたっぷり入れたクリームソースで煮込んだ料理である。ちょうどヨーロッパとアジアの境に位置するジョージアが発祥なのだそうだ。
なぜ僕がシュクメルリを食べてみたくなったのかというと、松屋がシュクメルリの販売を開始して少し経った2020年1月の終わり頃に、シュクメルリを大絶賛する記事をインターネットの至るところで見たからである。シュクメルリブームは一過性のものではなく、駐日ジョージア臨時代理大使(大使館の中でどんなゴタゴタがあったのか知らないが、臨時やら代理やらなんのこっちゃという感じである)までが実際に松屋の店舗を訪れ、その味に太鼓判を押したというのだからマジモンである。
それまではシュクメルリなんてものは見たことも聞いたこともなかったが、毎日のように絶賛記事を見ていると、食べたこともないのに香ばしい鶏肉とニンニクの匂いが画面を通して漂ってくるようで、僕はすっかりシュクメルリの虜になってしまったわけである。
こうしてまんまとシュクメルリマーケティングの餌食となってしまった僕だったが、残念ながら昨年のうちに念願のシュクメルリを食べることはできなかった。僕が松屋を訪れる前に、シュクメルリの提供期間が終了してしまったのである。思い立った時にすぐに行動せず、グズグズと先延ばしにするのは僕の悪い癖である。とはいえ、人気のメニューは販売期間終了後しばらくすると、もったいぶった感じで復活させるのが松屋の商売のやり方である。気長にシュクメルリが復活するのを待ちましょうという太公望的スタンスを決め込んだ。
そして2021年1月、「世界一にんにくをおいしく食べるための料理」という触れ込みで、ついに松屋が待望のシュクメルリを復活させてくれた。さすがは松屋というだけあって「シュクメルリ鍋定食」が790円、「シュクメルリライスセット」が730円という良心的な価格設定である。今度ばかりはこの機を逃すまいと、最寄りの松屋に向かってダッシュしようとしたが、家にも職場にも半径2km以内に松屋の店舗がないことにその段階になって気づくという要領の悪さである。職場周辺に至っては、牛丼チェーンの松屋よりもデパートの銀座松屋の方が近いという悲劇である。
さすがに40歳にもなって、2km以上の距離をダッシュするのは身体にこたえるし、いくらシュクメルリが食べたいとは言え、わざわざ公共交通機関を使って松屋に行くというのも、ちと間抜けな気もする。しかし、こんなことで1年あまり恋焦がれたシュクメルリを諦めてしまうのは悔しすぎる。かくして私は「こうなったら俺が作ってやるよ。シュクメルリをな。」と決意するに至ったのである。
まずは材料の調達である。ネットに転がっているシュクメルリの画像を頼りに、近所のスーパーで材料を買いそろえた。おっさんの下手糞な料理のレシピなんて誰も関心なかろうが、次の通りである。
・鶏もも肉
・さつまいも
・にんにく
・玉ねぎ
・牛乳
・ヨーグルト
本来はヨーグルトではなく、サワークリームであるべきらしいのだが、わざわざサワークリームなんて買ったところで、余った分の使い道に困るのは目に見えている。と、嫁さんに叱られたため、水抜きしたヨーグルトで代用することにした。シュクメルリの主役といえば、鶏もも肉とさつまいもだが、幸運なことに、近所のイオンスーパーで、ぷりっぷりのもも肉と、僕のイチモツほどある巨大なサツマイモを入手することができた。
材料が揃ったところで早速調理である。レシピに続き、シュクメルリを自作しようという人がどれほどいるかは分からないが、次の1~5の手順である。
1. まずは大量のにんにくをこれでもかというほどすりおろす。ラーメン屋のテーブルで取り放題になっているくらいの量といえば大げさだが、これを鶏もも肉に満遍なく塗りたくって置いておく。
2. 次に、さつまいもを輪切りに、玉ねぎを櫛形に切る。
3. フライパンに油をひいて、鶏もも肉を焼く。この時は失敗したが、皮がパリパリになるまで焼くと美味しくなるのではなかろうか。
4. 玉ねぎとさつまいもを炒める。鶏から出た油で炒めると風味がついて美味くなるようなならないような。
5. 鶏、さつまいも、玉ねぎを炒めたフライパンに、牛乳とヨーグルトを入れ、塩コショウで味付けをする。さつまいもが煮崩れる程度に煮込んだら完成。
完成図を写真に収めていないことが悔やまれるが、松屋のシュクメルリは乳白色であるのに比べ、僕が作ったのは少し黄緑がかっていて、ドロドロしている。これは調子に乗ってデカい芋を丸ごと使ってしまったことが原因であると思われる。俺のイツモツほどある巨大なさつまいもなんて使わずに、普通サイズのさつまいもを使っていればよかった。
見た目がややイケてない一方で、食べてみるとこれがなかなか美味しいものだ。にんにくの風味は強く感じられるが、牛乳とヨーグルト、そしてさつまいもの甘味のおかげで刺激が大分緩和されている。鶏肉とさつまいも組み合わせも初体験だが、なかなかイケるものである。しかし、調子に乗って大皿に盛ったやつを食べ続けていると、大量に投入したさつまいもが腹の中で膨れているのか、苦しくて仕方ない。調子に乗って山盛りにしてしまったこともあり、完食するのに大分苦労してしまった。実際にシュクメルリを食べてみて気付いたことは、これは単なる鶏肉料理でも、「世界一にんにくをおいしく食べるための料理」でもない。芋を食う料理である。
しかし、さつまいもは腹持ちするうえ、ああ見えて血糖値が上がりにくい糖質ではあるらしいので、ダイエット食になり得る可能性は秘めていると思う。
てなわけで、みようみまねでチャレンジしてみたシュクメルリ作りであったが、初めてにしては美味しく食べられるくらいのものができたと自画自賛しておく。とはいえ、後になって思うと、しめじなどのキノコ類を一緒にしても美味かったかもしれないとか、煮込む時に白ワインを入れたら、もっと美味いかもしれない等の改善点も多々あるのではないかと思う。
近いうちに、より美味いシュクメルリ作りにチャレンジしてみたい。モチベーションを高めるために、シュクメルリで画像を検索してみると、驚愕の事実が判明した。
いや、サツマイモ入ってねえじゃん!!!
松屋の人が何を思ってシュクメルリにサツマイモを入れようと思ったのかは知らないが、僕が食べた料理は一体何だったのだろうか、という気分になってしまった。