毎日Youtubeでハイライト動画をチェックする程度のゆるいNBAファンである。そのNBAにおいて、最近トリプルダブルという記録が量産されているという話である。
バスケットボールでは、得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックという主に5つの部門で個人記録が付けられている。1人の選手が、1試合でこれら5つの部門のうち3つの部門で2桁の記録を残すことをトリプルダブルと呼んでいる。ちなみに、スティールとブロックで2桁の記録を残すことは超至難であるため、トリプルダブルが達成されるのは、得点・リバウンド・アシストの3部門である場合がほとんどである。
2021年3月13日に、同じ日に5人の選手がトリプルダブルを達成するという新記録が誕生して、ちょっとした話題になった。ところがそのわずか4日後に、今度は6人の選手がトリプルダブルを達成するという新記録ラッシュになっている。
こうなると、「トリプルダブルって実は大した記録じゃないんじゃね?」と思われがちだが、決してそんなことはない。なぜならば、バスケットボールという団体競技では、選手のポジションごとに役割が分業化されており、異なる複数の部門にまたがって2桁を記録することは難しいのだ。
バスケットボールのポジションは、ざっくりガード、フォワード、センターの3種類に大別される。得点に関しては、どのポジションの選手でも記録することはできるが、ゴール下で外れたシュートを拾うリバウンドは身体の大きなセンターの選手、得点に繋がるアシストを供給するのは器用なドリブルやパスが得意なガードの選手の役割とされているのだ。
そういうわけで、少し前までは、トリプルダブルという記録にはそう簡単にお目にかかれるものではなかった。2015年あたりまで、NBAでは、1シーズンを通して記録されたトリプルダブルの数は50回程度の推移に留まっていたが、直近の2,3シーズンでは100回を超えることが常態化している。
それではなぜここ数年でトリプルダブルの数が倍以上に跳ね上がったのか。理由はいくつか考えられるが、まずゲームテンポが速くなったことが挙げられるだろう。NBAは計48分間のクォーター制で争われるが、ゲームテンポの遅い80対70の試合よりも、テンポの速い120対110の試合の方が個人成績も伸びやすい。得点については言うまでもなく、それに付随してアシストも増える。得点が増えるということは、シュートの回数も増えるということで、それに応じてシュートミスも増えるため、リバウンドも増えやすいということになる。
2000年代の前半なんかは、ディフェンス重視の戦術を採用する玄人好みチームがいくつもあって、勝敗が80点台で決する試合も珍しくはなかった。ところが、そういったディフェンスをガチガチに固めるような試合では、どうしても派手なダンクやパスが出にくくなる。ファンの多くはきらびやかで派手なプレイを見たがるので、オフェンスが有利になるようにルール変更がなされるようになったのである。こうしたオフェンス重視のルール変更が、選手が記録を伸ばしやすくなる環境を醸成したことは間違いない。
また、なんでもこなせる器用な大型選手が増えたことも、トリプルダブルが量産される一因であることも間違いない。10年前までは身長が210cmを超える選手は、ゴール下付近で仕事をしていれば一定の評価を得られたのだが、最近は大型選手でもガードのようなドリブルやパスのスキルを持った選手が台頭しているのだ。
バスケットボールでは、最近ポジションレスという用語をよく聞くようになった。従来のガード、フォワード、センターといったポジションの枠に当てはまらないプレースタイルの選手が多く登場している。こうした潮流に乗って、これからも世界中から器用な大型選手が続々とNBA入りしてくるだろう。トリプルダブルの量産体制は今後もしばらく続くのではないかと見ている。あまりにトリプルダブルが乱発されてしまうと、それ自体の価値が薄れてしまうことになりやしまいかという懸念もあるけれども。