いくら組織と言っても所詮は人間の集合体なので、時には気まぐれに変なことをすることもある。
新しい年度を迎えるにあたって、勤務している会社から「来年度からおまえの給料を上げてやるからありがたく思え」という旨の内示があった。そりゃ給料は上がるに越したことはないが、昨年度は新型コロナウイルスの影響で、例年以上に仕事をしていないのに、なぜこのタイミングで昇給なのだろうか。会社自体の業績だって決して良くはないはずである。
単刀直入に「給料が上がるのはありがたいが、この大変な時に給料を上げて良いのか」と尋ねると、「まあなんとかなるだろう」との回答であった。昇給の理由についても、前年度の働きぶりだけを評価したものではなく、ここ数年の功労に対するものであるということのようだ。
「会社も日本もコロナ禍に喘いでいる時に、自分だけが高い給料をもらうわけにはいきません。昇給は遠慮しますので、その分を日本赤十字にでも寄付して医療従事者への報酬の足しにしてください」とは決して言わずに、ありがたく自分の懐に収めることにした。
4月になり、先日昇給後初めての給料が支払われたので確認してみると、なるほど定期昇給分に加えて2万円弱ではあるが確かに支給額が増えている。こうなると、それでは上がった分の給料をどのように使おうかという話になってくる。嫁さんに相談すると「まだ子供も小さいんだから、将来に備えて貯金しろ」などという、つまらない答えが返ってくるに決まっているので、ここは自分だけで孤独に決断せねばならない。
まず思い浮かんだのは「少しは昼飯を豪華にしたい」ということである。目下、僕の昼飯の大部分は、大手立ち食いそばチェーンである「ゆで太郎」によって供給されている。460円で美味しく食べられる「ゆで太郎」のかき揚げそばも悪くはないが、さすがに毎日のようにこれを食べていてもさすがに飽きる。せっかく給料も上がったことだし、たまには1食1,000円以上するランチを食べてもバチは当たらないのではないかという気もする。一方で、「ゆで太郎」が優れているところは、なんと言っても「15分以内で昼飯を食える」というところだろう。1時間の昼休みのうち、約20分を昼寝に充てている身としては、昼飯に30分以上費やしてしまうのは命取りである。「注文してから20分で食べ終わることができる1,200円のランチコース」を供する店があれば是非行ってみたいと思う。
次に思いつくのは「高い酒を買う」ということである。若い頃はとにかく安酒をガバガバ飲んでいたものだが、歳を取ると「良い酒を少し飲む」という方向に嗜好が変化するというのはよく言われることである。時代の趨勢を考えても、もう仕事帰りに仕事仲間と居酒屋で酒を飲んでくだを巻くようなことはあるまい。今後は良い酒を家でちびちび飲むというスタイルが主流になりそうである。奮発してボトル1万円くらいするようなワインを買って週末に楽しむというようなことをしてみたい。
その他としてはマッサージに行くくらいのことだろうか。現在でも月に1度のペースで整体には通っているが、仕事に疲れてどうしようもないという時に、懐を気にせずマッサージに行けるというのはありがたいことだ。
あれこれ考えたはみたものの、毎日の昼飯を豪華にして、週末に高い酒を飲み、疲れた時にマッサージに行くとなると、それだけで昇給した分の金が軽く吹っ飛んでしまうのではないだろうか。どんなに金を稼ごうとも、それに見合った欲望が出てきてしまうので、どこかで欲望を抑えない限り金が貯まるということはないのかもしれない。