昼休みの間に昼寝ができるかできないかによって、午後の仕事のパフォーマンスは大きく変わる。
こんな生き方をしていても、40歳ともなればベテランとして扱われ、自分の業務をこなすほかにも、会社の内外から様々な相談を受ける立場である。そんな時に頭が快晴の青空のようにすっきりしていれば、少しは気の利いた対応もできようが、逆に頭の中がどんよりと曇っていると、まともな対応もできず、逆に事態を混乱させてしまうようなことになりかねない。頭の中をクリアにするにあたって、昼寝は極めて有効な手段である。
散らかった部屋は 不退転の決意をもって重い腰を上げ、自分の手ずから片付けを行わなければならないが、頭の中のとっ散らかりは、昼間に20分眠るだけで自然と整理される。個人的に生産性という言葉は好きではないが、生産性生産性とうるさい企業は個人に下手な工夫を求めるよりも、自然の助けを借りて、食事の時間のほかに2,30分の昼寝タイムを取り入れれば良いのにと思う。
当然会社は家ではないので、横になる場所を探すのには苦労する。世の中には椅子に座ったまま眠れたり、机に突っ伏して眠れる人もいるが、僕の場合は身体を横たえないと眠ることができないのだ。幸い会社の応接室に、人がひとり横になれるくらいのソファがあるので、昼休みで誰も使っていない時には、このソファに横になって眠ることにしている。
ところが、社内の一部にはこれを善しとしない声もあるらしく、上層部の会議などで度々、「応接のソファで寝ている奴がいる」という議題が取り上げられるらしい。他にどんなことに使われているか知らないが、せっかくゲットした昼寝用のソファが奪われてはたまったものではない。ガラにもなく政治力を発揮して、ソファの使用について決定権を持つ人間にゴマをすったりして、どうにかこうにかソファでの昼寝を続けてきたが、こんなことに労力を費やすのもアホくさいと思えてきた。せっかく昼寝によってクリアになった頭を社内政治やゴマすりによって疲弊させていたのでは本末転倒である。
要はソファでなくても、身体を横にできる場所があれば良いのである。そう思って、一度会議室の床に寝そべってみたが、床は硬いし冷たいしで、とてもじゃないが満足に眠れたものではない。そのうえ、「床の上に寝るのは汚いので止したほうがいい」と忠告してくれる人もいた。変な病気が流行っていて、衛生面にはより一層の配慮が必要であるとされる昨今、こうした事情もあって床の上にダイレクトで寝るのは断念することとなった。
そんな時に目に留まったのが、この度キングジムが発売したポンプ一体エアマットである。某ニュース記事によると、ビニール製のマットと足踏み式のポンプが一体となっており、1分ほどで7cmの厚みに膨らますことができるようである。スケートリンクかと思うほど硬くて冷たい会議室の床の上も、このマットさえあれば怖くない。
早速Amazonか楽天市場かで購入し、先日手元に届いたところである。早速開封し、寝心地を試してみたが、空気を入れるのに多少コツは要るが、確かに1分程度で膨らませることはできる。空気が十分に入っていれば、応接室のソファに引けを取らないくらいのフカフカな寝心地である。マットの大きさも僕の身長(183cm)くらいであれば、足が出ることなく、快適に眠ることができそうだ。
問題は昼寝中よりも、むしろ昼寝から目覚めた後に訪れるかもしれない。というのも、マットが備え付けの袋にきちんと収まるように畳むのに結構骨が折れそうである。まず、膨らんだマット全体の空気を満遍なく抜かなければならない。そのためには、マットのあらゆる箇所に入った空気を撫でるようにして、空気弁から排出されるようにする必要がある。また、マットを丸めていく際には、まるでキャラクターの海苔巻でも作る時のように、細心の注意を払いながら、慎重に巻いていく必要がある。僕のような不器用な人間にとって、これはかなりの根気を要する。慣れれば多少は短縮できるかもしれないが、マットの空気を抜いて、綺麗に丸めるまで5分はかかってしまいそうな感じである。
1時間の昼休みのなかで、昼飯を食った後でさらに昼寝をするという分刻みのスケジュールで動いている多忙な身としては、マットを畳むのにかかる5分という時間はかなり痛手である。それにしても、業務時間中より昼休みの方が忙しそうだなんて駄目なサラリーマンの典型ではないか。
そもそも、公式サイトにもあるように、もともとこのマットは災害発生時などに、帰宅困難者が出た場合を想定して作られたものであるため、畳むのに一刻一秒を争うような事態はもともと考えられていないのだろう。そういう意味では「畳むのに手間と時間がかかるのでけしからん」という批判は的外れであると言えるが、キングジムには次回作として、「応接室のソファを追われて泣く泣く会議室の床で昼寝をすることになったサラリーマン」をユーザーとして想定した商品を開発していただきたいものである。