アンパンマンもペッパピッグもやってることは同じ

 2歳半になる我が家の娘も、他の多くの子供達がそうであるように、アンパンマンが大大大好きである。小さな子供達のアンパンマンへの入れ込み具合といったら、そんじょそこらの生半可な宗教の信者などでは到底太刀打ちできないだろう。

 子供を持つまで気付かなかったが、アンパンマンは実は街中の至るところに潜んでいるものである。例えば病院に行けば、「手を洗おう!」みたいなキャンペーンのポスターにアンパンマンが使われているし、電車やバスなどの公共交通機関に乗っても、車内広告のどこかにアンパンマンがいる。パン屋に行っても銀行に行ってもアンパンマンはあの笑顔で僕らに笑いかけてくれているのだ。

 そして不思議なもので、子供はそれらのアンパンマンを絶対に見逃さない。子供をちんたら歩かせていては電車に乗り遅れてしまうので、駅までの商店街を子供を抱いてダッシュで駆け抜けていても、「あ!アンパンマン!」と5m先にある本屋の店内に陳列されているアンパンマンの絵本を瞬時に発見できてしまうのである。もしかしたら、この卓越した能力は高性能レーダー等の軍事技術に転用できてしまうのではないだろうか。娘が研究のためにどこぞのスパイ機関に攫われたら困るので、この話はあまり大々的にしないでおこうと思う。

 家の中でもアンパンマン一色である。僕としては毎朝、朝食を食べながら社会でどのようなことが起きているかを把握しておきたい、というか女子アナの姿を拝んで目の保養をしておきたいので、朝のニュース番組を観たいのだが、娘がアンパンマンに目覚めてからは、毎朝先週録画したアンパンマンを何日も観させられるハメになっている。どうやら娘は朝食の時間以外でも、同じアンパンマンを繰り返し繰り返し観ているらしい。そんだけ観ているなら、いい加減次にどんな展開が待っているか分かりそうなものだが、それでもアンパンマンとバイキンマンが仲良く喧嘩している様子がこの上なく面白いようだ。

 しかし、こちらとしては、4日も5日も毎朝同じアンパンマンを観させられるという拷問は耐え難いので、彼女がテレビをつける前に先回りしてニュース番組を観ていたら、劣化のごとく怒られてしまい、その日は口をきいてもらえなくなってしまった。「アンパンマンとお父さんとどっちが大事なんだ!」と聞いたところで、こともなげに「アンパンマン」という答えが返ってくることは明白なので、敢えて聞かないことにしている。認めたくないことではあるが、娘の中では、家庭内の序列として、最初にアンパンマンがあって、その次に母親、そして最後に僕がいるという形なのだろう。

 ところが最近、このアンパンマンの一強体制に食い込んできそうな存在が現れている。何を隠そうそれが「ペッパピッグ」である。僕も娘がYoutubeで観ているのを横目で見るくらいで、詳しいことはあまり分からないのだが、ペッパという豚の女の子が、家庭や学校で送る日常を描いたアニメである。おそらくイギリスあたりの作品ではないかだろうか。登場するキャラはすべて動物だが、アンパンマンにおけるバイキンマンのような悪役は登場せず、善良で穏やかなキャラクターばかりである。ペッパはとても明るいキャラクターで、話し方も笑い方も可愛いのだが、合間に「フゴッ」というリアルな豚の鳴き声が入るので、それがツボにはまるらしい。

 また、ペッパが何よりも好きな遊びが「水溜りを飛び跳ねること」であり、毎度のように水溜りに侵入しては泥水を飛び散らしてお母さんに怒られたりしている。ちなみに我が家の娘も水溜りに飛び込むことを無上の喜びとしており、こうした共通点があることも「ペッパピッグ」好きに一役買っているものと思われる。

 娘の「ペッパピッグ」好きは日に日に増しており、先日はいつの間にか「ペッパピッグ」のキャラクターが描かれたスウェットなんぞを着て悦に入っていた。どうやら、うちの嫁さんがわざわざ販売サイトを見つけて購入してやったらしい。このように、子供に人気のキャラクターを使って洋服やらカバンやらを作って、子供たちに売るという商売は万国共通のようだ。アンパンマンのテレビアニメを観ていても、CMはアンパンマン関係のおもちゃがこれでもかというほど宣伝されており、キャラクタービジネスのあまりの露骨さに胸焼けがするのは僕だけではあるまい。

 「ペッパピッグ」関連グッズで笑ったのは、「水溜り飛び跳ねスーツ」というレインコートのようなツナギが、しれっと紛れ込んでいたことである。「ペッパピッグ」を見て水溜り遊びにハマってしまった子供も少なからずいるだろうが、そういった層を取り込んで逃さないという商魂の逞しさを感じる逸品である。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする