「セレブな専業主婦なんかに憧れるな!」と主張する女性学者に反論する

 毎日の通勤時間は有効に活用したいと思ってはいるものの、大半の時間はネット記事の読み流しのような非生産的な形で浪費されてしまう。iPhoneアプリのSmartNewsがおすすめしてくる記事を死んだ目で、ただおすすめされるがままに読むという、この上なく受け身の日々が続く。読むというよりも、画面上の文字をただ単に目で追っているというような感じで、読んだ後に頭にも心にも何も残らないので、人様にはあまりおすすめできない通勤時間の使い方である。

 先日は、上野千鶴子さんに質問「セレブな専業主婦になりたい娘に、なんと伝えたらいいですか」という記事を読んだ。上野千鶴子先生といえば、女性学の権威として著名な東大名誉教授である。その手の質問を上野千鶴子先生にしたところで、どんな答えが返ってきそうか聞かなくても分かりそうなものだ、というのが記事のタイトルを目にした時の僕の第一印象である。

 その流れで記事を読んでみると、大学生の娘を持つシングルマザーからの相談に対して、インタビュアーと上野千鶴子先生がやり取りをする、という内容であった。どうやらその大学生の娘は、母親が女手ひとつで苦労しながら自分を育てる姿を見て、セレブな専業主婦になりたいという夢を持ったようである。

 それに対する上野千鶴子先生の答えは、「今どき専業主婦になんかに憧れるのはリスクが高すぎるからやめろ」という予想通りの内容であった。「リスクが高い」とする理由として、①今の親世代よりも男性の収入が相対的に減っていること、②仮に高収入な男性と巡り会えたとしても、収入が高い男性は概して自己中心的かつ仕事第一なので自分のサポートをしてくれる脇役的な女性を求める、③万一結婚相手がDV夫だった時に逃げられない、というものである。

 これは僕の感想でしかないが、上に挙がった①、②、③いずれもその大学生の娘がセレブな専業主婦を諦める理由にはなり得ないのではないかと思う。

 まず①についてだが、これは要するに、時代が進むにつれて間口がどんどん狭まっているから止めろということだろう。間口が狭いから止めろというのは、「メジャーリーガーになりたい!」という夢を抱く少年に対して、「そんなもん誰でもなれるもんじゃないんだから諦めろ」と言っているようなものである。おそらく大谷翔平だって、二十歳くらいの頃には「メジャーリーグなんて簡単に行けるもんじゃない」なんてことは100回言われていたことだろう。その言葉でメジャーリーグを諦めてしまっていたら、今日の彼は存在しなかったことになってしまう。

 この相談者の娘が、どのくらいの収入の男性を指して「セレブ」と呼んでいるかは知らないが、セレブな専業主婦が狭き門であること自体、おそらく彼女自身も承知の上なのではないかと思う。それを知った上でセレブ妻を目指すと言っているのであれば、無理に止める必要もないのではないだろうか。まあ、彼女が専業主婦界の大谷翔平であるという保証はどこにもないのだが。

 ②については、そもそも「高収入な男性=自己中心的」という図式が本当なのかをまず疑ってみる必要があるような気がするが、確かめようがないというのが正直なところである。仮にこの図式が成り立つとしても、「セレブな専業主婦になる」ということが第一の目標なのであれば、自分を念願のセレブ妻でいさせてくれる人をサポートするのは当然と言えるのではないだろうか。さらにこの場合、夫の方も「セレブな専業主婦になりたい」という妻の願望をサポートしていると言えるので、夫婦が互いにサポートしあうという理想的な関係が築かれていると言えなくもないのではないだろうか。

 そもそも、世の中は主役タイプの人間ばかりではなく、好んで脇役に回るタイプの人だっている。上野千鶴子先生の説が正しいのであれば、むしろ脇役タイプの女性は積極的に専業主婦になることが奨励されるべきだと言うこともできるのではないかと思う。

 最後に③だが、これはちょっと極論かつ暴論なのではないだろうか。結婚相手がDV夫だったら?というリスクは確かに存在するが、DV夫ではない確率の方がよほど高いわけである。可能性の低いリスクを挙げて、何かを諦めなければならないとすれば、それこそ何もできなくなってしまう。飛行機は墜落するからパイロットになるなとか、笑いが取れなかったら恥ずかしいから芸人になるなと言っているのと同じことである。

 見たところ、相談者のシングルマザーは、娘がセレブな専業主婦を目指していることを快く思っていないフシがある。それはおそらく女手一つで苦労して娘を育て上げた自らの人生の否定に繋がるからであろう。敢えて相談者として上野千鶴子先生を選んでいるところに、それが透けて見えるような気がする。

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