いつの間にか2号店までできていたフォーティンの日本店とハノイ店との違いを語る

 ベトナム料理と聞いて、真っ先にフォーを連想する人は多いのではないだろうか。一口にフォーと言っても、色々な種類があって、なかなか奥が深いものであるらしい。

 まず、スープやトッピングに鶏肉を使うか牛肉を使うかというところで大別される。さらに地方ごとに味付けや使う具材が違ったりして、バリエーションに富んでいるようだ。この辺りは日本におけるラーメンや雑煮なんかと似たようなものなのかもしれない。

 ベトナムの首都ハノイに、「フォーティン(Pho Thin)」という牛肉のフォーの名店がある。ハノイを訪れた人ならば、一度は行ったことがあるのではないだろうか。

 牛骨から取ったコクのあるスープに、牛コマとネギやニラのような野菜がたっぷり乗っている。フォーといえばあっさりしたものが主流だが、フォーティンの牛肉のフォーは比較的こってりした部類に入るのではないだろうか。

 そうした物珍しさもあってか、ハノイにあるフォーティンの本店は一日中、客足が途絶えることがない。混雑時には店の脇にある路地にまで風呂場で使う椅子みたいなものが並んでいる。海外のビジネス客や観光客にも人気があるようで、店に入ると現地の人々に混じってフォーを啜っている外国人客も見かけることもしばしばである(まあ自分もその一人であるわけだが)。

 そんな有名店であるだけに、価格設定は他店に比べて少しお高めであるようだ。それでも一杯5万ドン(約250円)ほどなので、日本人の感覚からすればお手頃すぎる値段である。しかし、現地の滞在歴が長くなると、フォーに5万も払うのは高すぎるなどと言い出し始めるのだから、恐ろしいものである。

 しばらく前に、フォーティンが日本に出店するらしいという話を聞いた。おそらく、ハノイのフォーティンのフォーを食べた日本人の中に商魂たくましい人がいて、「この味は日本でもウケるのではないか」と考えた末に仕掛けたのだろう。

 先日、新宿に用事があって小滝橋通りを歩いていると、銀盤に黒字の見慣れた看板が目に留まった。これがフォーティンの看板だと気づくまでさして時間はかからなかった。フォーティンの日本店は池袋と聞いていたが、いつの間にか新宿に2号店までできていたとは・・・。

 新型コロナウイルスの流行のため、以前は年に数回行っていたハノイも、もう2年近くご無沙汰である。コロナ以前であれば、わざわざ日本でフォーを食べることもないのだが、このご時世、今度ベトナムに行けるのはいつになるやらという感じである。ちょうど小腹も空いていたし、ここで巡り合ったのも何か縁だとばかりに店に入ってみた。

 最初に現れたのは券売機であった。メニューが牛肉のフォー一択なのは本店と一緒である。この辺りは実に潔くて好感が持てる。フォーのトッピングを色々と選ぶことができ、ネギやパクチーを大盛りにできるようだった。この辺りは本店にはないオプションである。

 それはそれで良いことなのだが、反対に本店にはある揚げパン(のようなもの)がないのは寂しいことである。本店では確か5千ドンを追加で支払うと、プラスチックのカゴに山盛りの揚げパンがもらえたはずだ。フォーを食べ終えた後に、この揚げパンをスープに浸して食べると実に美味い。このオプションがなくては、フォーティンで牛肉のフォーを食べる楽しみが2割方落ち込んでしまうのである。

 また、店内の様子も本店に比べたら大分衛生的である。確か本店では使い終わった紙ナプキンや、絞り終えたすだちの皮などが当たり前のように床に捨てられていたように記憶している。日本店では当然のことながら、そんなことをする客はおらず、床にはゴミひとつ落ちていない。これはどちらが良い悪いという話ではなく、単に文化の違いというやつだろう。

 テーブルの上に置いてある箸も本店とは大分違う。箸立てから箸を取り出す方式は同じであるが、本店の箸はかなり年季が入っていて、ケバだっているようなものも多い。そこへ行くと日本店の箸は使い切りの割り箸である。しかもよくある割り箸でなく、丸型の割り箸である。丸型の箸の方が平打ちのフォーを食べやすいという配慮なのかもしれない。

 注文してからフォーが供されるまでの時間は本店と変わらないように感じた。見た目も思い出に残っているフォーと変わらない。肝心のフォーの味についても、牛肉の味がしっかりとして、本場さながらの味が堪能できる。海外渡航ができずにフォーティンの味が恋しい人には十分おすすめできる味である。敢えて注文をつけるとすれば、本店に比べて麺がやや柔らかすぎるような印象があった。

 また、ピークの時間を外れていたせいもあるかもしれないが、店員が普通に客席に座って食器や食材の整理をしているのも現地の雰囲気が味わうことができ、個人的には良い経験であった。

 しかし、本場の値段を知っている人間からすると、フォー一杯に900円かかるというのは、いささか驚きである。日本の物価を考えれば適正価格と言えなくもないが、同じ値段で本店のフォーが3、4杯食えることを考えてしまうと、毎日食べに行こうとは思えないのが正直なところではある。

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