オーランド・マジックにはボル・ボルがいるからビクター・ウェンバンヤマはいらないよね?

弱いが見ていて面白いオーランド・マジック

 スポーツの世界には当然のことながら強いチームと弱いチームがある。

 強いチームを見ていて面白いのは当然のことだが、弱いチームの中にも見ていて面白く、応援したくなるチームとそうでないチームがある。

 2022-23シーズンのNBAでは、個人的にオーランド・マジックが弱いながらも将来性が感じられて、見ていてとても面白い。若くて才能溢れる選手が多いので、今のままでも勝てる戦力は十分整っているように思えるが、主力選手の怪我による離脱もあり、2022年12月1日時点の戦績は5勝16敗とあまり振るわない。

 今シーズンのNBAは、翌シーズンのドラフトにビクター・ウェンバンヤマという超人が控えていることから、ドラフト1位指名権を得られる可能性を少しでも高めるため、意図的に負けるようなチームも多いようだが、果たしてオーランド・マジックもウェンバンヤマ狙いでわざと負けているのか、あるいは本当に弱いせいで負けているのかいまいち判然としないところがある。

マジックの大型フォワード充実しすぎ問題

 それでもオーランド・マジックの試合は見ていて面白いことは間違いない。敢えて名作SLAM DUNKに登場する新米記者の中村くんの言葉を借りれば「おっきくてウマい」選手がたくさんいるのである。10年後のNBA選手はきっとこんな形に進化するのだろうなというのを先取りしているような感じである。

 今シーズンのドラフトで1位指名を受けたパオロ・バンケロは、208cm・113kgと弱冠20歳とは思えないほど堂々たる体格をしており、それでいながらコートを縦横無尽に走り回り、重戦車のようにディフェンダーを蹴散らしながらバスケットに向かっていく。ハンドリングやパス捌きも上手く、さながら全盛期のレブロン・ジェームズを彷彿とさせる。

 また、昨シーズンにオール・ルーキーチーム入りしたフランツ・バグナーも同じく208cmという長身ながら、彼より10cmほど小さいマヌ・ジノビリのような華麗なステップワークでドライブする。

 さらに、ここ数年はケガのため離脱しているが、長い手足を活かしたディフェンスで相手を悩ませるジョナサン・アイザックも211cmの長身フォワードである。

父親を超えたボル・ボル

 このように、身長、機動力、器用さという三拍子が揃ったフォワードを綺羅星の如く擁しているマジックだが、ここに来てマジックのフォワード陣に新たなる星が誕生しつつある。昨シーズン途中にデンバー・ナゲッツから移籍してきたボル・ボルである。

 彼の父親は1980年代後半から1990年代初頭にNBAに在籍していたマヌート・ボルである。マヌート・ボルの身長は脅威の231cm。ジョージ・ミュアサンと並んで、NBA史上最も身長が高い選手として知られている。

 その息子のボル・ボルも身長218cmと父親譲りの長身ではあるが、身体の線が細すぎるのもまた父親譲りである。実際、ボル・ボルを見ると本当に棒のようである。周りの選手が筋骨隆々なだけに細長い棒っぷりが一層際立っている。

 一方で、体型は父親譲りではあるが、バスケットボールのスキルは父親のそれを遥かに凌駕している。マヌート・ボルは言ってみればただ身長が高いだけでNBAに入れた選手である。生涯スタッツを見るとNBA在籍10シーズンで平均3.3ブロックというモンスター級の成績を残しているものの、それ以外の分野では平均2.6点、4.2リバウンドとあまりぱっとしない。

 ボル・ボルは今年で4年目のシーズンとなるが、少なくとも昨シーズンまでは父親と同等かそれ以下の成績しか残せていなかった。ところがオーランド・マジックへの移籍を契機に、その才能が一気に開花した。

 ナゲッツでもその才能の片鱗は見せていたが、MVPセンターのニコラ・ヨキッチの影に隠れてプレイタイムを全くと言ってよいほど与えられていなかっただけで、才能が開花したと言うよりも日の目を見る機会を得たと言う方が適切なのかもしれない。

 これまで、ボル・ボルのようなプレイをする選手は全くいなかったと言ってよい。身体が細身であるが故に、リバウンドの位置争いでは苦戦するものの、長い腕で相手選手の後ろからリバウンドを奪取し、そのまま長身に似つかわしくないドリブルスキルと人間離れしたストライドで一瞬で相手のバスケットまで到達してダンクを叩き込んだかと思えば、トップからドリブルでドライブするかと思えば、ジェームズ・ハーデンのようなステップバックからの3ポイントを沈めたりする。また、ディフェンス面でも長い腕を活かして父親と同じように相手のシュートを叩き落とすことができる。

 長年NBAを観戦して目の肥えているファンでも彼のプレイに驚愕する様子をよく見かける。

ドラフト1位間違いなしのウェンバンヤマとの類似性

 それではボル・ボルのようなプレイスタイルの選手は唯一無二かと言うと決してそうではない。正確に言えば、今シーズンまでは唯一無二と言えるかもしれないが、来シーズンからはそうでなくなる。冒頭で少し触れたビクター・ウェンバンヤマがNBAにドラフトされるからである。

 ウェンバンヤマの体格はボル・ボルと非常によく似ている。ウェンバンヤマの身長は彼自身によると「裸足で7フィート3インチ(221cm)」とのことなので、靴を履いた身長が登録されるNBAでは7フィート4インチ(224cm)ということになるだろうか。体重も100kgとか104kgとか言われているので、ウェンバンヤマは少し背が伸びたボル・ボルといった感じであろうか。

 また、少なくとも下位リーグのDリーグやフランス代表の国際試合でのプレイを見る限り、ウェンバンヤマのスタイルもボルのそれとよく似ている。長身であるにもかかわらずフットワークが軽やかで、ボールハンドリングのスキルが高いうえ、シュートレンジも広い。3ポイントラインからダーク・ノビツキーのような片足フェイドアウェイを決めたりしていて、これまでのバスケットボールとは違うルールの球技を見させられているような錯覚すら覚える。

 今は下位リーグでプレイしているウェンバンヤマだが、果たしてより体格の良い選手がぶつかり合うNBAでも今と同じようなプレイができるのかという議論がNBAファンの間で熱く交わされている。

 そうした時に、ウェンバンヤマと体格やプレイスタイルの似たボルは格好の試金石である。ボルがNBAで実績を残すほど、否が応でもウェンバンヤマへの期待も増していく形となっている。

オーランド・マジックがドラフトでウェンバンヤマを引き当ててしまう可能性

 さて、恐ろしいのはそのウェンバンヤマがマジックに入ってしまう可能性も結構高いということである。オーランド・マジックは目下イースタン・カンファレンスの最下位争いを繰り広げており、このままシーズンが終わってしまうと、来シーズンのドラフトでも高い順位の指名権を手にすることになる。

 NBAのコミッショナーのアダム・シルバーは、前シーズンの勝率が最も低い3チームであっても、ドラフト1位指名権を得られる可能性は約14%ほどに抑えており、ドラフト1位欲しさに意図的に負けても意味がないとは言っているが、それでも勝率の高いチームに比べれば確率的にドラフト1位を獲得できる機会は増すわけである。

 オーランド・マジックは今シーズンもドラフト1位指名権を獲得し、その結果パオロ・バンケロを指名しているが、同一チームが2年連続で1位指名権を獲得するケースは珍しくない。最近では、2016年と17年にフィラデルフィア・セブンティシクサーズが、2013年と14年にクリーブランド・キャバリアーズが連続1位指名権を獲得している(が、両チームとも不思議とどちらか一方で大コケしている)。

 もし、オーランド・マジックが来シーズンも1位指名権を獲得して、ウェンバンヤマを指名してしまったら、ウェンバンヤマとボルが味方同士で同じコートに並び立つという恐ろしすぎるラインアップが誕生してしまうことになる。

 来シーズンのドラフトに関しては、1位指名権を獲得したら、そこに悩む余地はなく自動的にウェンバンヤマを指名するような雰囲気になっているが、ことオーランド・マジックに関してはボル・ボルがいるんだからウェンバンヤマは他に譲れよと声を大にして言いたい。

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