2023年5月16日(現地時間)、NBA2023-2024シーズンのドラフト抽選会が行われ、注目の1巡目1位指名権はサンアントニオ・スパーズが獲得した。
通常であれば、ドラフト会議が行われる6月22日までの間に「ドラフト1位で指名されるのは誰か?」という議論が盛んに行われるが、2023年の場合はそうした議論は無用である。1位指名はビクター・ウェンバンヤマが得ることが確定しているからだ。
フランス出身のウェンバンヤマは19歳ながら、身長は227cmとNBAの中でも飛び抜けて高いうえにステップバックの3ポイントシュートを打てるフットワークと優れたハンドリング能力を兼ね備える神童である。バスケ界の大谷翔平、あるいはそれ以上の逸材と呼んでも決して言い過ぎではない。
それだけに彼が今年のドラフトで1位指名されることはかなり早い段階で確実視されており、問題はどのチームがその指名権を得るかということに関心が集まっていた。真偽の程は定かではないが、1位指名権欲しさにわざと試合に負け続けるチームもいくつかあり、NBAコミッショナーのアダム・シルバーもそのことを懸念する声明を発するほどであった。
そして今、NBAでどのチームも喉から手が出るほど欲していたドラフト1位指名権はサンアントニオ・スパーズの手に渡った。筆者自身は特にスパーズのファンでもなんでもなく、できることならデトロイト・ピストンズやオーランド・マジックといった、弱いながらも若いタレントが揃いつつあるチームに加入し、2~3年でチームを優勝に導くというシナリオを期待していた。
しかし、こうしてスパーズ行きが9割9分確定してみると、ウェンバンヤマ本人のことを考えると、スパーズ行きという結末はベストに近いのではないかと思うようになった。前置きが少し長くなったが今からその理由を説明していきたい。
ドラフト1位の選手をレジェンド級に育てた経験
サンアントニオ・スパーズという球団の歴史を紐解くと、彼らがドラフト1位指名権を引き当てるのはこれが初めてではない。1987年にはデビッド・ロビンソン、そして1997年にはティム・ダンカンをドラフト1位で獲得した経緯がある。
NBAをある程度の年数見ていれば、ロビンソンやダンカンの名を知らない人はいないだろう。いずれもシーズンMVPを獲得するなど、その時代を代表するビッグマンとなった。1997年以降はロビンソンとダンカンがツインタワーを結成し、1999年と2003年には揃ってチャンピオンシップを獲得している。
ドラフトで1位で指名されたとしても、NBAの環境に馴染めず、鳴かず飛ばずでキャリアを終えてしまう選手も少なくない。そのような中、スパーズはドラフト1位選手をMVP級の選手に育て上げた実績があるのだ。ロビンソンやダンカンは引退後もスパーズと深く関わっている様子も垣間見られるため、ウェンバンヤマもこうしたドラフト1位指名の先輩達から直接知見を得る機会もあるのではないか。
フランス出身のOBが多数いる
ウェンバンヤマにとって頼りになるスパーズOBはロビンソンやダンカンだけではない。NBA選手は多国籍化の一途を辿っているが、スパーズはかなり早い段階からアメリカ国籍以外の選手を積極的に活用してきたチームとして知られている。ぱっと思いつくだけでも、アルゼンチン出身のマヌ・ジノビリ、オーストラリア出身のパティ・ミルズ、ブラジル出身のティアゴ・スプリッター、イタリア出身のマルコ・ベリネッリなど枚挙に暇がない。
そして、ウェンバンヤマの出身国であるフランスからも、トニー・パーカーやボリス・ディアウといった選手がかつては在籍していた。特にパーカーはダンカンやジノビリとともに、スパーズに5つの栄冠をもたらしたチームのポイントガードを努めた名選手である。ウェンバンヤマもかつてはパーカーに憧れ、パーカーのユニフォームを着ていたという話である(とパーカー本人が自身のTwitterで明かしている)。
さらに、もう一人のフランス出身者のボリス・ディアウも、NBAを引退した後は現在ウェンバンヤマがフランスで在籍しているMetropolitans 92の球団社長を務めているということである。
ウェンバンヤマは既にアメリカのメディアのインタビューには全て英語で答えられるだけの高度の英語力は身についているが、パーカーのサポートが得られることは彼にとっても非常にありがたいのではないだろうか。